死者が腐敗もせず火葬しても燃えなくなる《不滅現象》が起きた世界。土葬の場所も限界があり、選択肢は深い縦穴に埋めるか宇宙に打ち上げる宇宙葬にするかくらいしかないが、遺体を縦穴にぎゅうぎゅう詰めにするのはしのびなく、宇宙葬にするにもロケットを発射する宇宙港の建設が、不滅遺体の増加に全然間に合わず庶民には高価すぎて手が出ない状況である。
そんな中である日本のベンチャー企業が格安の宇宙葬プランを打ち出し突貫工事で洋上宇宙港を完成させるが、その格安突貫工事が可能だった理由は不滅となった遺体を宇宙港の土台として埋め立てたからだった、という事態が世間にあからさまになってからがこの作品の本篇。
遺体が土台に使われた遺族、ベンチャー企業の社長、遺族の会社の同僚やまったくの第三者の回想なりインタビュー的記事なりで構成され、
何が正解かは、もちろん示されない。日本は明示的な宗教的哲学がないので、ベンチャー社長のように「遺体にはもう魂はないのだから利用するのは当然(意訳)」のような主張もなりたつ一方、宇宙港が建設できなければ縦穴行きしか選択肢のない状況で、遺族も感情的に納得できないながらも全面的にベンチャー企業が悪だとも強く断定できない。
貧すれば鈍する状況で人間はどこまで尊厳のない選択をするのか、どこまで《合理化》してしまうのかという思考実験の作品。
そしてこの作品は小説じゃなければなりたたなかった。実写映画はもちろんのこと、アニメや漫画だったとしても、宇宙港の土台から人の手が出てくる絵が示されたとたんにセンセーショナルな感情論でベンチャー企業を悪としてしまうことになるだろう。そこをこの小説は、あえて淡々と描写することで、冷徹な思考実験として示している。なかなかわりきれない引っかかる作品だ。
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