映画『BLUE GIANT』をIMAXで見てきた。音の作り込みがとても良い映画だった。
一番の特徴は、上手い演奏は上手く、良い演奏はちゃんと良い演奏で、下手な演奏はきっちり下手に演奏されていたこと。
例えば雪祈がはじめてきいた大のサックス。私は頭では固くて荒い演奏であまり上手くないと判断したが、背筋がぞくぞくして身体は良い音だと感じていた。私の拙い感覚ではどこが良いとは言語化できないが、良い演奏だった。
ニヤッとしたのは雪祈が最初に参加していたセッションの《マンネリな演奏をくりかえすベテランプレイヤー》が、まさに「そうそうそんな感じあったなあ」と膝を叩くくらい思い当たる節のある演奏と音だったこと。こんな演奏佃煮にするほど聞いたことがあるなあとニヤニヤしてしまった。
一番の肝は、原作のBLUE GIANTは、大の成長の物語なんだけど、映画の重点は大にまきこまれた雪祈と玉田の成長が描かれていて、映画が進むにつれて彼らの演奏が変化していくのがはっきりと分かる点。
玉田の最初の演奏は本当に素人がいっぱいいっぱいに弾いている感じがよく出ていた。ラストのクライマックスのライブも演奏は、ちゃんと上手くなっている所はそれなにり上手くなっているけど、やっぱりいっぱいいっぱいで一生懸命さが伝わる演奏だ。この玉田の演奏とその変化、ちゃんと演じ分けている吹き替え(というのかなアニメでも)のプロのミュージシャンが凄いぜ。
雪祈の成長は、演奏の変化に加えてエピーソードによる伏線を上手く使って表現されている。初ライブ前の練習のときに、大が感性で汚い和音を平気で吹くのに対して、雪祈が理論に沿った良い音を出せと主張し平行線におわる。このエピーソードで雪祈の理論派の面を強調し、それゆえに無難で小さくまとまってしまう壁にぶち当たる展開へとつながる。そして《有名来日アーティスト》の代打メンバーとしての演奏で、最初はいままでと同じ無難な演奏をしていたが、アーティストに促されるように、次第に感性に従い汚い音もいとわない迫力のある良い演奏を始める雪祈。画面もサイケデリックな目眩がするような演出で新しい世界へ踏み出した雪祈の世界を表している。
雪祈についてはもう1つ。最初の《マンネリな演奏》で手をぬいて左手1本で演奏する雪祈と、最後のライブで怪我で右手が使えない中で左手1本でそれでも迫力ある思いのこもった良い演奏をする雪祈の対比がとても良く彼の成長と変化を表わしている。
『BLUE GIANT』は、良い演奏の音楽が随所にあるのが魅力だが、それに加えて、これまで説明したとおり、演奏が音楽がとても良い《演技》をしていて、お話を形作り盛り上げているという、非常に良い映画だった。
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