行動心理学という学問分野があります。
とても大雑把にいうと、人間の行動を
◆行動の「きっかけ」→「行動」→行動で得た「結果」
の三要素でとらえて、要素間の関係やら相関やらを分析する学問です。応用として有名なところではカジノで、顧客にお金を使う行動をさせ/るようにするために、建物やオッズなどをどう設計するかてなところに使われていたりします。
機会があって行動心理学をちょっとだけかじったところなんですが、そこでいくつか判明している基本的な法則に「いい結果はその行動の頻度を上げる」「わるい結果はその行動の頻度を下げる」というのがあります。
単純な例ですと、
◆(きっかけ)『ご飯が食べたい』→(行動)『あるレストランに行って食べる』→(結果)『値段のわりに美味しかった』
ということがあると、そのレストランに行く頻度は上がるでしょう。逆に
◆(きっかけ)『ご飯が食べたい』→(行動)『あるレストランに行って食べる』→(結果)『美味しかったけど厨房から怒鳴り声が聞こえて雰囲気が悪かった』
ということがあると、そのレストランに行く頻度は下がるでしょう。
この法則に着目して、頻度を上げたい行動にはいい結果(ほめる、報酬を与える等)を行い、頻度を下げたい行動には悪い結果(罰、叱責等)を与えるようにするというのが、大雑把に言う行動心理学の応用です。
ここで注意するのが影響がでるのは行動の方で結果ではないということです。
例えば、失敗を減らそうと考えて、失敗という結果に罰、叱責を加える、というのはよくある考え方ですが、それで直接に減るのは「失敗する可能性がある行動」です。例えばスポーツの場合の失敗はほとんどが「成功するか失敗するかわからない挑戦的な行動」の結果です。その結果に対する罰は、そういう「成功するか失敗するかわからない挑戦的な行動」を減らすことになり、失敗は減るかもしれないが成功することも減る事無かれ主義の無難なプレイヤーを作ることになります。特に不確定な要素の多いサッカーのようなスポーツの場合はそれが顕著にでるでしょう。
罰を与えて相手の行動を変えようというときは、常に「どういう行動を減らしたいのか」「その罰のメッセージは正しく伝わるのか」を良く吟味して行わないと、目的を達するどころか副作用の方が大きい結果になります。ナイーブに《失敗を減らしたいから罰を与える》ではいいことはほぼ起こらないです。
罰が有効な場合というのは、例えば「工事現場での今にも事故を起こしそうな危険行動」のような失敗する行動と成功する行動がはっきり分別できるもので、その場合はすぐに叱責すれば、失敗に直結する危険行動を減らすことができる、というような場合です。 サッカーでいうなら敵の危険な反則とかなら、叱責やブーイングは有効でしょう。
では味方の失敗に対してどうするのがいいのか。
答えはいろいろあります。一例として、まず評価軸を失敗を減らすから成功を増やすとしましょう。行動と結果は切り分けて行動の方を評価する。それが成功に向けた挑戦的な行動であれば、それを褒める。そうでない行動であれば修正を迫る。失敗という結果の方を捉えた罰は与えないというやりかたとかがあります。
あくまで結果ではなく行動の方を評価し、どういう行動を増やすか(減らすか)という判断に基づき対応します。この例では選手が挑戦的な行動をしやすい心理状態に持っていくことを目的として対応する、というわけです。
ちょっと難しい言い方をつかうと、挑戦的なプレーができるような状態について、心的安全性が高い状態という述語があるんですよ。
このような状態にうまく選手を持っていくのが応援のあり方じゃねえかなというのが、ちょっと行動心理学をかじってみて到達した考えというのが今回の記事の趣旨です。
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