東北歴史博物館(多賀城市)のGIGA MANGA展を見てきました。内容は江戸時代の浮世絵から昭和戦中期までの《日本の漫画の変遷》が展示ですが、特にこの手の漫画展ではあまり取り上げられない明治維新期から大正、昭和の戦前の漫画誌の展示が充実していまして、2時間かけて
みっちりみてしまいました。
展示の始めは《鳥羽絵》から。江戸中期に木版摺が発達し、版元の半数以上があった京都で生じた戯画のスタイルで、「手足が長く眼が黒丸が一文字に簡略化され描線も極めて簡潔」です。私が模写した鳥羽絵がこんな感じ
秋竜山のような週刊誌に載ってるナンセンス漫画に通じるものがある絵ですな。この時代、鳥羽絵の他に大津絵や狂画、略画というスタイルもあったそうな。
北斎漫画や、歌川広景の滑稽な『江戸名所道戯尽』、河鍋暁斎のユーモラスな『狂斎百図』など、江戸後期から明治初期の面白おかしい浮世絵、戯画を紹介したあとが、圧巻の明治維新以降。
イギリスの風刺雑誌『パンチ』を真似て来日したイギリス人が創刊した『JAPAN PUNCH』影響されて、仮名垣魯文と河鍋暁斎が創刊した『絵新聞日本地』、野村文夫の『團團珍聞』(まるまるちんぶん)、フランス人居留者が創刊した『TOBAE』、宮武外骨の『滑稽新聞』と続きます。
これら新聞、雑誌で、河鍋暁斎や歌川派の画家が活躍し、ここで浮世絵とポンチ絵が接続します。維新で輸入された鉛版印刷の技術に合わせて、浮世絵の絵柄と西洋の風刺画の絵柄が融合していき、我々が見覚えのある漫画の絵柄に近づいてくるのが見て取れます。
ちなみに2020年2月に弥生美術館で開催された『もう一つの歌川派展』が、浮世絵本流ではなく新聞や雑誌の挿絵を活躍の場にした歌川派を画家の系譜の視点であつかっており、この展示を相互補完する内容でした。
北沢楽天の『東京パック』の体裁は、いまの週刊誌、大人向けの週刊漫画誌と遜色ないくらいです。明治中期の田口米作の絵は鳥羽絵の伝統をうけつつ、初期の黒鉄ヒロシに通じる絵です。(そういえば黒鉄ヒロシも週刊誌のナンセンス漫画家だ)アール・ヌーヴォー様式を取り入れた小川未醒やアール・デコを取り入れた小川治平など表現の幅も広がります。
この時期の雑誌の特集で『リップヴァン浦島』とか『ウソップ物語』とかあって考えるネタは昔も今も変わらないなあと妙に感心したり。
大正期の第2次『東京パック』には竹久夢二も登場します。夢二の絵は、日本画洋画の流れで見ると唐突ですが、鳥羽絵→ポンチ絵→北沢楽天の系譜でみるととても自然に見えます。同時期の『トバエ』では岡本一平や近藤浩一郎が活躍。近藤浩一郎の似顔絵は山藤章二の似顔絵教室を先取りするようなモダンでバラエティにとんだ絵柄をものしています。大正末の『子供パック』で子供向けマンガ雑誌が始まり、新聞で正チャンやフクちゃんの連載が始まって連載漫画のまるっこい可愛い絵柄が始まって、のらくろ、タンク・タンクローまでがこの展覧会のスコープでした。
漫画雑誌の現物のデザインや絵柄の変化を追いながらの充実した2時間でした。図録も分厚く充実しています。8月4日に展示入れかえがあって9月4日まで。たぶん全国何箇所か巡回するっぽいのでお近くで開催の際は是非とも。
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