万八の語源をめぐって
万八の語源はgooの辞書だと”〔万のうち真実は八つだけの意〕”という身も蓋もない説明がされている。
一方、インターネットを検索すると文化14年(1814)に両国柳橋の料亭/貸座敷の万屋八郎兵衛、略して万八で行われた大酒大食大会の記録がとてつもない大げさなだったのが語源というサイトが散見される。
万八(まんぱち) - 日本語俗語辞書
万八の由来は江戸時代、柳橋にあった貸座敷“万屋八郎兵衛こと通称:万八”で行われた酒合戦からきたとされる。この大酒飲み大会の様子を記したものがあまりに大げさで現実離れしていたことから、万八を嘘・デタラメという意味で使うようになったというもの(うそっ八も同語源とされている)。
万八酒合戦
「うそっぱち」の語源となった“万八”酒合戦について、『酒おもしろ語典』より書いてみましょう。
そこで、goo辞書で万八の文例
「世に万八といふ事は、此の男より始まりける/浄瑠璃・神霊矢口渡」
としてある福内鬼外(平賀源内)の「神霊矢口渡」の初演を見ると、1770年で万屋八郎兵衛の大会よりこちらが40年も先なので、万八の語源が万屋八郎兵衛の大酒大食大会というのは実際は無理がある。
もっとも当時の日記でもこの記録は『虚説』といわれるほどだったとのこと(参考:江戸の醜聞愚行45等)そういう説が生まれるというのもムベなるかなとは思われる。
ちなみに万八は広重の絵にもなるくらい有名な座敷。
森川和夫:廣重の風景版画の研究(1)65
万屋八郎兵衛、万八と河内屋半次郎、河半の二楼は書画会のための貸座敷として特に有名であった。もっとも、「万屋八郎兵衛と聞かれたで知らず」という江戸川柳があるぐらいで、当時といえども本名で聞かれると反って分からなかったようではあるが。
で、大酒大食大会の逸話から万八は酒の異名としても使われると書こうとしたら、こちらの文例はさらに古く、近松門左衛門の当麻中将姫で元禄9年(1696)に書かれたものだそうな。
語源の通説はなかなか一筋縄ではいかないもの。本当の見もふたもない語源より『物語性』のある後世の逸話の方が語源として普及しやすいということなのかな。
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コメント
(追記)
万八を嘘(つき)の意味で使用するのは岩波文庫の落語本集(黄251-3)のp99にある式亭三馬の江戸嬉笑序にも見られる。これは文化3年刊行だから1806年。
投稿: 傍見頼路 | 2007.10.27 10:04